高精細ディスプレイのためのフォトニクスポリマーの開発

ゼロ複屈折ポリマーおよび光散乱導光ポリマーのテクノロジーを駆使し、バックライトから液晶パネルまでを視野に入れたトータルな設計を行い、新規液晶ディスプレイシステムの提案を目指す。

日本から大きく発展した液晶ディスプレイ産業は、熾烈な国際競争の結果、多くのシェアを海外企業が占める状況となっています。特に液晶テレビ、液晶パネルなどの川下からシェアを奪われ、さらにバックライト、偏光板、光学フィルムなどの部材も猛烈な攻勢にさらされています。液晶ディスプレイの優れた画質・性能は、多くの部材により実現しています。これらの部材の性能向上により、もっともっと液晶ディスプレイの画質・性能は向上します。これを達成することが、日本の部材メーカーおよび液晶ディスプレイ産業のこれからの国際競争力強化につながります。本テーマでは、フォトニクスポリマー(「光散乱導光ポリマー」「ゼロ複屈折ポリマーおよびゼロ・ゼロ複屈折ポリマー」)を駆使し、新しい光学フィルム・バックライト・粘着剤を開発します。さらに個々の部材の性能を向上させるだけでなく、液晶ディスプレイ全体を視野に入れた「トータル設計」を行い、世界最高水準の高画質・低消費電力新規液晶ディスプレイシステムの実現を目指します。

KPRIが提案する新規液晶ディスプレイ

従来方式

従来は液晶層を斜めに通過する光が受ける複屈折を位相差フィルムで補償し、広視野角化していた。

新規方式

新規方式ではHSOT Polymerをバックライトとフィルムに応用することで、見る方向による色の変化が小さいLCDとなる。

参考文献:A.Tagaya and Y.Koike, SID Symp. Dig. Tech. Pap., Vol.43, 737(2012)

ゼロ複屈折ポリマーによる新規プラスチックフィルムの開発

ゼロ複屈折ポリマーを用いた溶融押出法による高効率なフィルムの製造を実現させ、低コスト、かつ世界最高性能のフィルムを提供することを目指します。

+ 複屈折のメカニズム

 配向複屈折

ポリマー主鎖の配向にともない、モノマーユニットのもつ分極率異方性がマクロに現れることで生じる複屈折 

光弾性複屈折

ポリマーが弾性変形し、応力が印加された際に生じる複屈折 

+ ゼロ・ゼロ複屈折ポリマーの設計

 分極率異方性の異なるモノマーの共重合により、ポリマー鎖内で異方性を打ち消すことで、複屈折をゼロにします。(ランダム共重合法)

右記の連立方程式を条件Δn0 = C = 0 の下で解くことで、2種類の複屈折を同時にゼロにしたゼロ・ゼロ複屈折ポリマーを作製しました。 これまで困難だった射出・押出成形法に応用できると期待されます。

[1] A. Tagaya, Y. Koike, et al. Macromolecules, 39, 3019-3023 (2006)

+ 射出成形品の複屈折

 汎用的なポリマー材料は射出成形時に複屈折が生じます。ゼロ・ゼロ複屈折ポリマーは両複屈折が精度よく消去されているため、複屈折に起因する光漏れが観察されません

+ 押出成形フィルム

 生産効率の高い溶融押出法へ利用してLCD用光学フィルムを製造することで、高画質なLCDを低価格で実現できると期待されています。

押出成形フィルムの観察(右)
通常のポリマーフィルムでは、複屈折による光漏れ・色むらが観察されます。 (写真左)
ゼロ・ゼロ複屈折ポリマーでは、光漏れが生じず「黒」が観察されます。 (写真右)

光散乱導光ポリマーによる薄型・低消費電力バックライトの開発

光を高効率に散乱し、高品位な照射光を作り出すことができる「光散乱導光ポリマー」を用いた薄型・低消費電力バックライトの開発を行っています。激しく変化する液晶ディスプレイ分野において、高性能かつニーズにあったバックライトを目指します。

+ HSOT Polymer バックライト

FIRSTプログラムでの研究成果

+ 超複屈折フィルムの開発

これまで20年以上の間取り組んできたポリマーの複屈折をゼロにする研究に基づき、その発想を正反対の方向へ転換することにより超複屈折フィルムが誕生しました。8,400 ~ 10,500 nmにおよぶ極めて大きな複屈折(リタデーション)を持つ、これまでには無かった全く新しい光学フィルムです。液晶ディスプレイにおいて問題とされてきたフィルムの複屈折による虹むらを解消できます。さらに、偏光サングラスなどを着用すると真っ暗に見える画面が、この超複屈折フィルムを液晶パネル前面に配置することによって偏光が解消され、本来の画像がくっきりと見えるようになります。


【これらの研究成果に関連する主要な論文・特許】
  1. D. Kobayashi, A. Tagaya, and Y. Koike, "A High-Retardation Polymer Film for Viewing Liquid Crystal Displays through Polarized Sunglasses without Chromaticity Change in the Image", Japanese Journal of Applied Physics, Vol. 50, pp. 042602-1-6 (2011).

東洋紡(株)より発表された「超複屈折フィルム」詳細は下記をご参照ください。
コスモシャイン 超複屈折タイプ(SRF)(東洋紡HP)

+ 溶融押出法によるLCD用ゼロ・ゼロ複屈折ポリマーフィルムの開発

配向複屈折および光弾性複屈折のいずれも発現しないゼロ・ゼロ複屈折ポリマーを設計・合成しました。これらを100~200kgスケール、2tスケールで試作し、溶融押出製膜することに成功、さらにその一部を二軸延伸し、偏光板保護フィルムとして用い、偏光板を作製しました。その結果、優れた偏光特性(光漏れが無い)の偏光板が得られることを確認しました。

【これらの研究成果に関連する主要な論文・特許】

  1. A. Tagaya, and Y. Koike, Polymer Journal, 44, 306 (2012).
  2. S. Iwasaki, Z. Satoh, H. Shafiee, A. Tagaya, and Y. Koike, Polymer, 53, 3287 (2012).
  ※特許数件出願中

+ ゼロ複屈折粘着剤の開発

液晶ディスプレイ用粘着剤の複屈折の定量的な測定およびそれに基づく複屈折を発現しない粘着剤(ゼロ複屈折粘着剤)の設計・合成に、世界で初めて成功しました。さらにこのゼロ複屈折粘着剤を用いて偏光板をガラス基板に貼合し、加速試験を行ったところ、黒表示時の光漏れを抑制することに成功しました。

【これらの研究成果に関連する主要な論文・特許】

  1. H. Ito, S. Yanai, S. Oda, A. Tagaya, and Y. Koike, AIP Advances, 2, 022142-1 (2012).
 ※特許数件出願中

+ 光散乱導光ポリマーバックライトの開発

①エッジライト型:
バックライトの導光板およびプリズムシートの設計・試作を進め、世界最高水準の集光性を有するバックライトを試作することに成功しました。革新的液晶ディスプレイに用いるバックライトとして、これを組み込んだトータル設計を進めています。

②直下型:
大型液晶テレビ用バックライトの設計を進めています。LED素子の上に配光を制御する光散乱導光ポリマー素子を配置し、薄型化を目指します。現在、シミュレーションによる設計と試作を進め、優れた混色性能を得ることに成功しました。

(株)エンプラス研究所 ご提供

【これらの研究成果に関連する主要な論文・特許】
  1. A. Tagaya and Y. Koike, SID Symp. Dig. Tech. Pap., Vol.43, 737(2012)

+ 偏光レーザーバックライトの開発

配向複屈折および光弾性複屈折を発現しないゼロ・ゼロ複屈折ポリマーを用い、偏光レーザーバックライトを設計・試作し、世界で初めてその優れた偏光光出射特性を実証しました。


Copyright(2012) The Japan Society of Applied Physics(1)

【これらの研究成果に関連する主要な論文・特許】

  1. T. Kurashima, K. Sakuma, T. Arai, A. Tagaya, and Y. Koike, Opt. Rev, 19, 6, 415-418, 2012.
    *特許数件出願中