KPRI所長からのメッセージ

私たちは、従来のフォトニクス分野とポリマー分野の学問領域を取り払い、両者の相互作用から発現されるフォトニクス機能の本質にまで遡ることにより、新しい機能を有する種々のポリマーを提案してまいりました。平成21年度内閣府最先端研究開発支援プログラム事業(略称FIRST)の「世界最速プラスチック光ファイバーと高精細・大画面ディスプレイのためのフォトニクスポリマーが築くFace-to-Faceコミュニケーション産業の創出」では、私たちの研究室から生まれたフォトニクスポリマーテクノロジーの成果である圧倒的なビットレートを有する世界最速の屈折率分布型プラスチック光ファイバー(GI型POF)と、高精細・大画面ディスプレイ用の光機能フィルムなど、新しいフォトニクスポリマーの機能を駆使し様々な開発を総合的に進めることにより、新たなシステムを創出するため研究を進めてまいりました。

FIRSTプログラム終了時には、私たちが提案して参りました世界最速GI型POFの上市、そして、光散乱導光ポリマーとゼロ複屈折ポリマーという新規フォトニクスポリマーによる「新規液晶ディスプレイ」の提案をいたしました。さらに、FIRST期間中に誕生した「超複屈折フィルム」は、平成25年2月4日付日本経済新聞1面の記事として大きく報道され、液晶ディスプレイフィルムとして広く採用されるなど、数々の成果を上げることができました。これらFIRSTプログラムでの成果は、2014年1月に竣工した慶應義塾大学理工学部75年記念新棟をはじめ、慶應義塾大学医学部に導入されています。医学部では、世界最速GI型POFと高精細大画面ディスプレイにより、最先端の内視鏡操作の遠隔講義、耳鼻科の3D映像による講義などでも活用され、高い評価を得ています。

日本では、2020年の東京オリンピックに向け、4K/8K時代の実現を目指しておりますが、これは医療分野にもさまざまな効果が期待されています。たとえば、"がんの初期の初期"の診断です。高精細、リアルな大画面で画像診断が可能であれば、"初期の初期のがん細胞"も識別することができます。また、内視鏡手術などにおける8K映像の利用も行われ始めています。しかしながら、実は、現在の4Kテレビでも、そのデータ量をリアルタイムに伝送するには非常に太いケーブルが必要になる、また、ノイズが増大するなど、ディスプレイの高精細化に伴うデータ量の増大に耐えうる伝送手段を確立するにはまだまだ課題が残されています。また、8Kの規格を満たす真のディスプレイの実現も道の半ばであります。私共が開発しました世界最速GI型POF、新規フォトニクスポリマーにより提案されるディスプレイの成果が、これらの課題を解決する糸口となり、真のリアルカラー8K映像の時代が到来することを切に願っています。

また、これら研究開発を支える多くの関係者の努力が実を結ぶことによって、例えばケアハウスに入居している高齢者が離れた家族の自宅と簡単につながり臨場感あふれるFace-to-Faceの対話と温かさに包まれるなど、現状では実現できない、まさに人と人との触れあい、安心・安全の、人にもどる社会の実現に一歩近づくことができるはずです。

私たちは、FIRSTでの成果をさらに進化させ、新たな産業創出につなげるべく、鋭意全力を投じる所存です。

慶應義塾大学理工学部教授
慶應義塾大学フォトニクス・リサーチ・インスティテュート所長 小池 康博